初回面談レポート:ノガミ カツキ+渡井 大己

メディア芸術クリエイター育成支援事業では、企画が採択されたクリエイターに対して制作費の支援をするだけでなく、その企画に対する質的な向上の支援を目指して、アドバイザーとのディスカッションを盛り込んだ面談を実施しています。8月29日(火)と8月30日(水)の2日間に分けて初回面談が実施され、作品のコンセプトや、制作の上での技術的な課題、完成時の発表方法やその後のプランに至るまで、様々な視点から議論が交わされました。
今年度採択された6組のクリエイターと、それぞれの担当となったアドバイザーとのやりとりの様子をこれからレポートして皆さんにお伝えしていきます。

 

第6回目はノガミカツキさん+渡井大己さんです。

 

2016年よりコラボレーションを開始したノガミカツキ+渡井大己さん。2017年9月にオーストリア・リンツで行われたアルスエレクトロニカ・フェスティバルのPrix Ars Electronica デジタルミュージック&サウンド部門にて受賞。文化庁メディア芸術祭では、ノガミさんは『group_inou「EYE」』(橋本麦との共作)にて第19回エンターテインメント部門新人賞を受賞、渡井さんはデバイス開発を担当した『妄想と現実を代替するシステムSR×SI』(市原えつこ・藤井直敬・脇坂崇平との共作)が第18回エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出されています。
今年度採択された企画『Rekion Voice』では、これまで二人が発表してきた、人間によってロボットが支配されている様子を表現したインスタレーション作品『Rekion』シリーズを発展させます。
アドバイザーを担当するのは、アーティスト/多摩美術大学教授の久保田晃弘氏、編集者/クリエイティブディレクターの伊藤ガビン氏です。そして初回面談にはソニー株式会社UX・事業開発部門 UX企画部コンテンツ開発課統括課長の戸村朝子氏も同席くださいました。
 
 
– 初回面談は、クリエイター、アドバイザー共にSkypeを介して行われました
 
 

 
 

プロジェクトのアーカイブ化

ノガミカツキ(以下、ノガミ): 現在の進捗としては、今年のアルスエレクトロニカ(2017、オーストリア)への『Rekion』シリーズの出展に向け、MEDIA AMBITION TOKYO [MAT] 2017で発表した作品のブラッシュアップを行っています。具体的には、自分自身の骨の動きに同期してロボットが動くようなパフォーマンスをできるようにする予定です。この事業の選考の際に提案している「Pepper」のような既製の「友達ロボット」をハックして改造するプロジェクトについては、まだ着手できていません。

久保田晃弘(以下、久保田): シリーズ作品を作る上で、バージョン1.0を作った後に、次は1.1を狙うのか、2.0を狙うのかを整理して、作品のバーションを管理・アーカイブ化していく方が良いでしょう。基本形から変更した内容が本当に自分のやりたかったことなのか、それとも会場や予算の制約によって変えたことなのかが混在するとアドバイスもしにくいので、「何がやりたいこと」で、「何ができなかったこと」かを明確にしてもらうと有意義なディスカッションができると思います。また、この事業は支援期間が限られているので、スケジュール管理が非常に重要です。例えば「何月までにロボットのハックの部分を完了する」と決めて、それができているか否かを共有していきましょう。

戸村朝子(以下、戸村): 作品を見ただけでは、見る人はそれを理解しきれないので、作者として各バージョンの作品に、対となる文章も残しておくべきだと思いました。その文章を公開するかどうかはともかく、文章化することで自分たちの中で整理することは非常に重要だと思います。
現在、さまざまなロボット製品が生産されているなかで、今後ハックして改造をする対象のロボットは、どのように選んでいくのでしょうか。

MEDIA AMBITION TOKYO [MAT] 2017で発表されたシリーズ前作『Rekion Voice -礫音-』

 
 

既製品をハックするということ

 
 

ノガミ: ハックする対象として、そのロボットが人との関係でどのような扱いをされているか、そしてどのような意図で作られたものかが重要だと思っています。見た目のデザインがなるべく人間に近く、そして人間とコミュニケーションをとることのできる「友達」のような機能を持つヒューマノイドロボットを選ぼうと考えています。例えばロボット掃除機の「ルンバ」は、その動作によって可愛く見えるのですが、擬人化したロボットではないので対象から外そうと思っています。

久保田: だとすれば、意外とPepper、AIBO、ルンバの組み合わせの方が面白いのではないでしょうか。この3つは人間/動物/道具の機能を持つ、主体としての人間/ペットとしての動物/擬人型でないロボット(道具)として捉えると、ひとつのエコシステムのようなものが表現できます。Pepperがいる場所をルンバが掃除して、そこでAIBOが散歩するような状況もイメージできます。こうした背景や状況も作品のモチーフとして、考えるべきことが色々とあるので、そこはひとつひとつ丁寧に考えて欲しいところです。前回のブラッシュアップを進めていくのではなく、全体を再検討したバージョン2.0を作ってほしいと思います。

渡井大己(以下、渡井): 今回のプロジェクトでは、これまでのバージョンの1.3、1.4、1.5というように作品をブラッシュアップする形で作ることは考えていません。全く別のバージョン2.0を作るつもりです。アーカイブについては、発表してきた作品をこの機会に整理しなければ次に進めない気がしています。アーカイブの方法も自分たちの中には漠然としたイメージはありますが、明文化ができていないので試したいと思います。

伊藤ガビン(以下、伊藤): この育成事業の選考の面談の時に、廃墟やロボットのディストピアというような、ステレオタイプなイメージを使っていることへの違和感について久保田先生が指摘していたかと思います。この指摘を二人がどのように解釈したかを知りたいです。先ほどの議論にも深く関わってきますが、ルンバのようなものをまったく異なるイメージで見せることで、人間とロボットとの関係性をはっきりさせることもできるので、いろいろな方向性がありそうです。今回は何をやろうとしているのかをはっきりさせる方が良いと思います。

ノガミ: 産業用のロボットはこれまでに使用した経験もあり、今回は家庭のなかに溶け込んでいるロボットを使いたいという気持ちがあります。しかし、家庭向けの掃除ロボットのルンバは、機能や形態、デザインががっちり決まっているので、今回は人間の心情に向けてデザインされているという意味で、ヒューマノイドロボットを使いたいと思っています。

久保田: ルンバは誰もいない部屋を掃除するために開発されましたが、最近ではWi-Fiで部屋のデータをサーバ上にアップロードしていくなどの追加機能も増えてきました。例えば、いつも掃除している部屋で、突然Pepperが死んでしまったら、ルンバがその情報を一体どのように捉えてアップロードするのかなど、ロボット同士の機能的なコミュニケーションからも、色々な物語を展開することができそうです。ロボット1台(と人間)をモチーフにした作品はよく見かけますが、複数のロボットが混在するものは、まだあまり考えられてはいないでしょう。日常の中で起こる廃墟やディストピアのイメージを、見た目や背景ではなく、そこで交わされるコミュニケーションや物語で伝えることができると思います。


 

ロボットやプロダクトに付随する「日常音」

 
ノガミ: 『Rekion」シリーズにおいて、自分やロボットの内部の音を知りたいと思ってパフォーマンス作品を制作したことがあります。ロボットのアームの動きと自分の顔の動きを同期し、自分の骨の音をスピーカーで出すというパフォーマンス作品です。今回のプロジェクトにも音を取り入れてみたいと思っています。

久保田: 音に着目しているとのことですが、今回提案しているデバイスやサウンドシステムの音が、社会的な文脈とどのように関わっていくのかを考えると良いのではないでしょうか。例えば、日常生活の音にこそ、今回のテーマの本質が隠されていると思います。かつて音楽の記録メディアがレコードからCDに変わった時、「針を落とす音」が失われました。最近では、エンジンがかかる音が、電気自動車では別の電子音に置き換えられしました。電気自動車のように音がしないものにわざわざ音をつけるなんて、技術者から見れば実にくだらない話で、それこそ近未来のディストピア性だと思います。そうした機能音や失われる音などを、誇張したり深く探ったりすることで、未来の不条理性を表現できるのではないでしょうか。

戸村: スチールカメラのシャッター音や化粧品のコンパクトを閉じる際のカチッという音など、コンシューマプロダクトは、ユーザーにどう受け止められるかを考えぬいて音のデザインまでも施されています。そうした意味でも、音にスポットを当てること自体は面白いですね。

久保田: 20世紀に電気が導入されたことによって、私たちの環境音は変わったと言われています。二人が見せようとしている世界においても、環境音や日常音などのサウンドがポイントになってくるように思います。
 
 

今後の具体的なスケジュールについて

 
ノガミ: ロボットだけで成り立つ世界、ヒューマノイドならではの環境を作りたいと思っています。「日常」や「部屋」が重要なキーワードになると考えています。

渡井: 次回までの目標としては、発見することが重要だと思っています。ロボットがいる日常にどんなコンテクストがあるかを発見し、同時に環境音や日常音も集めていきたいです。人とロボットが繋がっている場のリサーチも必要だと思っています。

久保田: 次回の面談では、バージョン2.0の仕様とプランのドラフト(下図)をあげてほしいと思います。また、Pepperに積んでいる感情エンジンなど、メーカーが設定したロボットの仕様に垣間見える、ダークネスやディストピアをリサーチして提示するのも面白いのではないでしょうか。ロボットは、人間のダークサイドを写す鏡のような存在になり得ると思います。社会、または日常生活で隠されているものを発見、誇張していくことが大事だと思います。

 

― 次回の中間面談では、作品の具体的な仕様や、今後の計画について話される予定です。

 

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