最終面談レポート:内田聖良

メディア芸術クリエイター育成支援事業では、企画が採択されたクリエイターに対して制作費の支援をするだけでなく、その企画に対する質的な向上の支援を目指して、アドバイザーとのディスカッションを盛り込んだ面談を実施しています。1月30日(木)に最終面談が実施され、作品のコンセプトや、制作の上での技術的な課題、完成時の発表方法やその後のプランに至るまで、様々な視点から議論が交わされました。今年度採択された6組のクリエイターと、それぞれの担当となったアドバイザーとのやりとりの様子をレポートしてお伝えします。

 
 
第5回目は内田聖良さんです。
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ネットアート作品『余白書店』が第18回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品に選出されるなど、今あるものに新たな可能性を見出し続ける内田聖良さん。今回採択された企画『ちいさいまよい家(が)/ちいさいまよい家(が)のために』(仮)は、「店」という形式をとりながら、ポスト・インターネット時代の身体から生まれる「民話」的フィクションをつくる試みです。
内田さんのアドバイザーを担当するのは、アーティスト/多摩美術大学教授の久保田晃弘氏と、ソニー株式会社コーポレートテクノロジー戦略部門テクノロジーアライアンス部コンテンツ開発課統括課長の戸村朝子氏です。

 

 
 

キャラクターの語りで変化する物語

 
内田聖良(以下、内田): まずは前回の面談で相談していた「話のフォーマット」を考えつつ、パフォーマンスの実験をしてみました。
 
─「クロレッツ」「ブラジャーの肩紐」「みかんのネット」を題材にした物語の音声を再生しました(5分間)。
 
戸村朝子(以下、戸村): 音声だけでもアニメーションが目の前に浮かんできます。

内田: 音声だけではなく、映像も作成したものがあります。
 
─ピンクのキツネが語る映像を再生しました(7分間)。

久保田晃弘(以下、久保田): キツネの淡々とした口調に対して、表情の動きがやや大きい印象があります。しゃべっている内容とジェスチャーに齟齬がある感じです。だからこその意味や味もあるので面白さはありますが、今回内田さんが伝えたいものに合うかどうかが気になりました。

戸村: 音声と映像、両方ともとてもよかったです。音声だけの方はそんなに登場人物も多くなかったので、自然とついていけました。比べて映像のほうは、話の内容に関してはびっくりするような重い話です。ただピンクのキツネがいるおかげでその緊張をほぐしてくれました。

久保田: キツネがしゃべってくれることで童話らしさが出ていますね。最初はキツネの顔の動作にびっくりしましたが、だんだんと顔の動きよりも話す内容に引き込まれていく。話にすっと耳がいくので面白かったです。内田さんの作品を初めて見る人に対しては、確かにこのようなキャラクターがあった方が受け入れやすいかもしれません。

内田: 使うキャラクターは1つだけにしたいと思っています。そのなかで声の主が入れ替わったり、似たような話でも声が少しだけ違ったり、というような差をつけていきたいです。物語を話すキャラクターは、既製のキャラからオリジナルのキャラまで色々あるので、どうやって選ぶかを少し悩んでいます。

久保田: 既製のキャラクターよりもオリジナルのキャラクターを使った方が邪魔をしないように思います。レディーメイドと同じで、なぜ既製品を使うのかという話が、どうしても出てきてしまう。既製品であることに特に意味がないのであれば、オリジナルのキャラクターを使った方がよいでしょう。また、耳元で囁いているように聞こえる、聴覚的体験もあるといいのかなと思いました。特に今映像で話されている内容は、耳元で囁かれたらゾワッとくる気がします。

内田: 音声はバイノーラル録音(人が両耳で聞くのと同様の音響効果を再現)をしています。頭にイヤホンマイクを着けたマネキンに話しかけ、実際に話しかけられているような感覚をイメージしてつくってみました。

久保田: バイノーラルで録音しているのであれば、耳穴開放型イヤホンを使用して、外の環境から断絶されずに聞くのもいいかもしれないですね。

 
 

 
 

綿密なリサーチと作品のつながりを示す

 
久保田: 今回、内田さんの場合はリサーチがとても重要な役割を果たしています。ですので、最終的なアウトプットそのものももちろん大事ですが、そこまでのプロセスが伝わる展示になるといいと思います。内田さんの作品は最終的な発表の仕方で、伝わるものが変わってくるため悩むところだと思います。僕らアドバイザーは、これまでの経緯を聞いているから理解していますが、初めて見た人がどう受け取るかを考慮したほうがよいかもしれません。

戸村: 確かに、これまで大変細かなリサーチをしてきたことが、この作品だけ見るとおそらく想像ができないでしょう。制作のプロセスを見せる、福島をリサーチしたときのスライドや映像を一緒に展示してもいいかもしれません。

久保田: なぜこのリサーチからこの作品が生まれたのか。発想やアイデアというものは論理的にはつながらないものですが、やっぱり何かつながりがある。必然性もないし、演繹的なものでもないけれど、このリサーチとこの作品はつながっている、ということを感じさせてほしいです。

戸村: リサーチと作品のプロセス全部が線形につながっている必要もないですよね。内田さんがまだ見えていない次の何かにつながっている可能性もあるかもしれません。

内田: 4月にスパイラルで開催される「SICF19」で展示をしますが、その展示方法を悩んでいます。前作の『余白書店』もネットで展開しているものなので、ギャラリーなどで展示する際には今も悩みます。

久保田: 絵を額装すると作品らしく見えてしまうというような、形式的な考えは危険な気がしていています。スパイラルは美術館ではないので、あえてテーブルの上にパッと広げておくのも手段の一つです。

戸村: 整理されていない状態でもいいかもしれないということです。変に整理してしまうとと既存のものを連想してしまうので、違和感があるように見せるのも大事です。

 

メルカリとVtuberによる「バーチャルまよい家」

 
内田: 制作とリサーチをしていく中で、「バーチャルユーチューバー(Vtuber)とフリマアプリの要素を、作品で使用したいと思いました。実験として、物語で使ったブラジャーの肩紐、みかんのネットなどをフリマアプリに出品してみました。フリマアプリで「祖母」と検索すると、「祖母から譲り受けたけれど私は使わないので」と記載のあるものが出てきたりして、勝手に知らない家のお祖母ちゃんのことを想像したりします。また、商品説明や、コメント欄の会話の様子なども出品者の家の中を垣間見れる感じのものがあったりします。フリマアプリ全体を、どこにあるかわからないけれど、その家を見つけたひとは、その家にあるものを持って帰っても良い、という「まよい家」に見立てることができるかもしれません。そして「まよい家」の中にあるものをVtuberの形式をつかって紹介するというアイデアです。勝手に誰かのものを紹介するのもありかと。Vtuberは、「キズナアイ」など理想の女の子を表現するようなものと、アバターと中身のギャップを出しているものがありますが、私はギャップがある方に注目しています。そうしたVtuberの中には、間違えて「俺」と発言するなど、女の子の中身がおじさんだ、ということが明らかにわかるものや、おばあちゃんのアバターで戦争や介護について過激な発言をするものがあるのですが、その時のオーディエンスの反応が面白くて、「俺」と間違えたことを責めるのではなく面白がったり、過激な発言に対しても「そんなこと言っちゃって大丈夫なの笑」みたいな感じで、禁を破ることに対して面白がる感じ、「嘘(バーチャル)だから」という設定を共有して、楽しんでいるように感じます。

─「バーチャルおばあちゃん」や「日雇礼子」などVtuberの例を紹介します。

内田: 昔話だと「昔々あるところに〜」から始まって、最後は「どんとはれ」「めでたしめでたし」とか決まり文句で、「今の話は嘘だよ」みたいな感じで終わるからこそ事実を言うと拒否反応を示されてしまいそうなことや、言いづらい気持ちも話せる。昔話とVtuberは、どちらも嘘のポーズをつくったうえで伝えるという構造があって似ていると思いました。

久保田: もし内田さんが更に批評的な観点を持つとするならば、その危険性というところにこそ踏み込んでほしい。バーチャル・リアリティは、外見と中身が違う良さをもたらしますが、一方で意見の誘導のようなことが起きているのは事実です。おばあちゃんだといいのなら、赤ちゃんだったら許されるのか、というPC(ポリティカル・コレクトネス)の虚実、といったところへも切り込んで行けると思います。

 

 

パフォーマンスをどのように考えていくか

 
内田: あとは、パフォーマンスをどのように考えていくかが課題です。『余白書店』の仕入れの際、amazon であえて説明書きに「傷や汚れあり」など記載がある本をたくさん買ったのですが、ほとんど汚れていないことが多かったんです。「私は説明に傷有りと書いてあったものを買ったはずだが、説明と違って傷も汚れもない」と言って返品していました。売る側からしたら、傷があると思って買ったものが、傷なしだったらお客は喜ぶだろうという思いで、善意でやっている行為だと思うので、何を言っているのかわからなかったと思うんですよね。そのときに、Amazonのアーキテクチャを逆走しているような感覚がありました。展示の際には観客に見えない部分ですが、そうした部分も含めて、店としての運営自体がパフォーマンスらしいなと思い始めています。今回、人の商品を勝手に紹介したり、表には現れない仕入れの流れだったりもパフォーマンスなのかなと思いますが、まだ迷っています。

久保田: そこはかなり重要なポイントで、僕はパフォーマンスと言うべきだと思います。ネット検索もある意味パフォーマンスだし、メルカリで探すというパフォーマンスがあってもいいと思う。今の『余白書店』でのふるまいをパフォーマンスとして見るのも面白いです。

戸村: 成果プレゼンテーションでは、4月をゴールにしていますという前提で、何をするかですね。

久保田: 成果プレゼンテーションの会場は特殊です。半分以上の人が休憩で訪れていたり、通りすがりの人もいる。そういう人たちにこのプロジェクトを紹介すると、思いもよらないフィードバックがあるように思います。実験的にチャレンジしたり、バリエーションを出して統計を取って分析したりも考えられるでしょう。4月のスパイラルでの展示に向けて、良いステップアップの場としても使えると思います。

 
─4月の展示に向けて、成果プレゼンテーションではその経過を展示する予定です。

<開催概要>
成果プレゼンテーション「ENCOUNTERS」
URL: https://creatorikusei.jp/achv2019/
日時:2019年3月1日(金)〜3日(日)
会場:Ginza Sony Park B3F
出演トークイベント:3月3日(日) 13:00〜14:00
「現在におけるコミュニケーションと余白の表現」
アドバイザー:久保田晃弘、しりあがり寿
クリエイター:内田聖良、佐々木遊太

 

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